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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)605号 判決 1976年10月28日

控訴人(附帯被控訴人)

松村信義

右訴訟代理人

麻植福雄

被控訴人(附帯控訴人)

田村富美枝こと

茂幾富美枝

右訴訟代理人

遠藤寿夫

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

(一)  控訴人(附帯被控訴人)は別紙物件目録記載の土地につき大阪法務局中野出張所昭和三二年三月二八日受付第七、三八五号をもつてなされた所有権移転登記の登記事項中、

(1)  「有所有権移転」とあるのを「共有者田村春栄、同田村秀太郎、同田村美穂、同田村吉彦の持分移転」と、

(2)  取得者として「松村信義」(控訴人・附帯被控訴人)とあるのを「持分六分の五松村信義」と、

それぞれ錯誤を原因として更正手続をせよ。

(二)  別紙物件目録記載の土地を別紙分割目録(二)のとおり分割する。

(三)  被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)に対する別紙分割目録(一)第一記載部分を分筆登記手続をし、右分割目録(一)第一記載の土地の控訴人(附帯被控訴人)の持分六分の五につき共有分割を原因とする共有持分移転登記手続をなすことを求める請求は、これを棄却する。

二、被控訴人(附帯控訴人)の予備的請求に基づき、控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、別紙物件目録記載の土地のうち別紙分割目録(二)第一記載の部分を分筆登記手続をし、右分割目録(二)第一記載の土地の控訴人(附帯被控訴人)の持分六分の五につき共有物分割を原因とする共有持分移転登記手続をせよ。

三、訴訟費用は第一、二審を通じて、これを一〇分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人。以下、控訴人と略称する。)代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人(附帯控訴人。以下、被控訴人と略称する。)の請求は、いずれもこれを棄却する。本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決並びに附帯控訴に基づき請求を拡張して、原判決主文第三、四項の認容せられない場合の予備的請求として、主文第一項(二)、第二項同旨の判決、右主文第一項(二)、第二項同旨の請求が認容せられない場合の第三次請求として「別紙物件目録記載の土地を競売に付し、その競売々得金のうち六分の一を被控訴人に、六分の五を控訴人に、それぞれ分配する。」(原審における第二次請求)との判決及び「附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた(なお、被控訴人代理人は、原判決主文第一項及び同第二項(二)の訴を当審において取り下げ、控訴人代理人はこれに同意した。)。

被控訴人代理人は、請求の原因として、

「一、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地と略称する。本件土地の面積は802.01平方メートルである。)は、もと田村力太郎の所有であつたところ、昭和二四年四月二日同人の死亡により、同人の妻田村春栄が持分六分の二、子の被控訴人、田村秀太郎、田村美穂、田村吉彦がそれぞれ持分六分の一の割合で共同相続し、被控訴人外四名の名義の共有に相続登記がなされた。

二、ところが、本件土地につき大阪法務局中野出張所昭和三二年三月二八日受付第七、三八五号をもつて昭和二七年一一月二五日売買を原因とし、右被控訴人外四名から控訴人へ所有権が移転した旨の登記がなされている。

なお、本件土地は、従前東住吉区東長居町五一八番田一反三畝四歩増四畝三歩と登記されていたのが、区画変更により昭和二九年表題改製され東住吉区山坂町五丁目三一番の一畑八畝〇二歩とされ(以下、甲登記簿と略称する。)、右登記簿には被控訴人らの相続による所有権移転登記も経由されていたところ、大阪市が公課滞納による差押をした際、昭和三二年二月二四日受付で誤つて被控訴人外四名名義の保存登記(以下、乙登記簿と略称する。尤も、当初は畑八畝〇二歩と登記されたが、同年三月二八日受付第七、三八四号をもつて宅地二四二坪六合一勺と土地表示変更登記がなされた)がなされ、二重登記となつていたものである。その後、昭和四二年一月二五日右甲登記簿は乙登記簿と重複するとの理由により閉鎖された。控訴人への売買を原因とする右登記は乙登記簿に記載されているものである。

三、しかしながら、被控訴人は、控訴人に対し、本件土地の共有持分を譲渡したことはない。

したがつて、前記控訴人への所有権移転登記は被控訴人の持分六分の一については無効であるから、控訴人名義の所有権移転登記を被控訴人の持分六分の一を除く持分六分の五の共有持分についての所有権移転登記に更正すべく、主文第一項(一)の更正登記手続をなすことを求める。

次に、控訴人としては、被控訴人と控訴人との共有に属する本件土地の分割を求めるものであるところ、控訴人において被控訴人の持分を徹底的に争つているなどの現状に照らし当事者間で分割協議が調うとは到底考えられないので、裁判所に分割を請求する。分割の方法としては、第一次的には別紙分割目録(一)記載のとおりの分割を求め、第二次的には主文第一項(二)のとおりの分割を求め(当審における新たな予備的請求)、第三次的に現物分割の結果土地が細分されることにより著しく価値を損すなどの現物分割が相当でないと認められる場合には、本件土地を競売に付したうえその買得金を持分に従つて分配することを求める。

更に、第一次の右分割請求が認められる場合には、別紙分割目録(一)第一記載部分を分筆登記手続をし、右分筆にかかる土地の控訴人の持分六分の五につき共有物分割を原因とする共有持分移転登記手続を、予備的に第二次の右分割請求が認められる場合には主文第二項の共有持分移転登記手続(当審における新たな予備的請求)を、なすことを求める。」

と述べ、抗弁に対して、

「一、被控訴人と控訴人との間に売買契約が成立したことは否認する。

(一)  被控訴人自身が本件土地の共有持分を売却したことはなく、又、本件土地の共有持分の売却につき被控訴人が田村春栄又は武田源左衛門に代理権を授与したこともない。武田源左衛門が被控訴人らの代理人と称して昭和二七年一一月頃控訴人に本件土地を売却した外形的事実は認める。

(二)  無権代理行為を追認したことは否認する。

すなわち、本件土地の売却代金七二万七、八〇〇円のうち相当額は武田源左衛門にとられたので、全額が田村春栄の手に入つたものではないと考えられ、被控訴人は昭和二五年三月新制高校卒業後結婚する年の昭和二九年八月末日まで勤めていたが、得た給料は別段家計へ入れる必要はなく、家計について余り関心は持つておらず、被控訴人の義母田村春栄は特殊の新興宗教にこつてこの方面に寄附していたこともあつて、被控訴人が本件土地の売却を知つたのは昭和三七年頃であるが、それに対して直ちに何らかの行動に出なかつたのは争う方法を知らなかつたためであり、無権代理行為を追認したからではない。これをもつて、黙示の追認とはいえない。

(三)  表見代理の成立は争う。

武田源左衛門が田村春栄に依頼されて、控訴人主張(イ)(ロ)のとおり土地を売却したことは認めるが、被控訴人が直接委任したことはない。なお、田村力太郎の死亡後、親族会を開いて、右(イ)(ロ)の土地は売却して従前田村力太郎が経営していた店の資金に充てるが、本件土地は売却しない(但し、売却について武田源左衛門に依頼するとか同人に一任するとかの話は全然出なかつた。)旨の協議がなされた。したがつて、被控訴人も結局は、(イ)(ロ)については武田源左衛門に売却を委任したことになることは争わない。

しかし、武田源左衛門が代理権を有するものと信ずるについて控訴人に正当の理由があるとの主張は争う。控訴人は、本件土地購入に当つては、被控訴人らの代理人と称する武田源左衛門だけを相手として交渉し、田村春栄及び被控訴人には一度も会つていないし、又、会おうともしなかつたのであり、しかも、控訴人は事前に田村春栄が武田源左衛門から借金していることを知つていたものであり、且つ同人は不動産周旋業者であるところ、不動産周旋業者の中には注意、警戒すべき人物のいることは世上周知のことであるのみならず、武田源左衛門の持参した委任状の田村春栄と田村富美枝との各署名及び田村春栄の印鑑証明書の字体が酷似していることから同一人作成の書面であることに疑念を持ち、取引の対象が不動産であるから慎重に行動すべきであり、田村春栄及び被控訴人に面接して真意を確認すべきであつたにも拘らず、漫然と武田源左衛門に代理権があるものと信ずるのは軽卒のそしりを免れない。印鑑証明があり委任状があるからといつて、代理権があるものと信ずるについて正当の理由があるとはいえない。

二、時効取得の点も争う。

すなわち、控訴人の占有を否認する。仮に、控訴人が本件土地の引渡を受けたとしても、その時期は早くとも昭和二八年一月末日である。

しかも、控訴人は占有の始めに悪意であつた。仮に善意であつたとしても、控訴人が占有の始め無過失であつたことは否認する。一項(三)で主張した諸事実に徴すれば、控訴人は無過失とは到底いえない。」

と述べた。

控訴人代理人は、請求の原因に対する答弁として、

「一、請求の原因第一項の事実は認める。

二、同第二項の事実も認める。

三、同第三頃の被控訴人が控訴人に共有持分を譲渡したことがないとの点は争う。

仮に被控訴人の持分が認められた場合における共有物の分割は、別紙分割(一)記載の分割による場合には控訴人にとつて著しく不利であつて不当である。現物分割をするとすれば、別紙分割目録(二)記載の方法によるのが妥当である。」

と述べ、抗弁として、

「一、控訴人は、昭和二七年一一月二五日、被控訴人を含む共有者全員から、田村春栄が持分六分の二、被控訴人、田村秀太郎、田村美穂、田村吉彦が各持分六分の一の割合で共有する本件土地を代金七二万七、八〇〇円で買い受けたものであるが、被控訴人の持分に関していえば、次のとおり買い受けた。

(一)  控訴人は、被控訴人自身又は被控訴人の代理人田村春栄又は田村春栄を通じて代理権を授与された武田源左衛門から、買い受けた。

(二)  仮に、田村春栄又は武田源左衛門が右売買契約締結当時代理権を授与されていなかつたとしても、被控訴人は右無権代理行為を昭和二八年一月末日頃追認したものである。

すなわち、控訴人は前記売買代金を、昭和二七年一一月四日手附金として金五万円、同月二七日内金として金四五万円、昭和二八年一月末日残金として金二二万七、〇〇〇円を田村春栄に払つたのであるが、当時被控訴人は大阪市東住吉区山坂町四丁目四番地に田村春栄と共に居住していたのであり、右売買代金は生活費に充てられたのであるから、被被控訴人としては本件土地の売買契約が締結されたことは容易に推認されたところであり、右売買代金が完済された頃に、被控訴人は控訴人に対して黙示の追認をしたものといわなければならない。被控訴人が昭和三九年まで何ら異議を述べていないことは追認の証左である。

(三)  仮に追認も認められないとしても、表見代理の成立が認められるべきである。

すなわち、被控訴人の義母田村春栄は、前記田村力太郎が昭和二四年四月二日に死亡した後は田村家の主宰者であり、一家の生活を支えるため相続財産の処分を前記武田源左衛門に委任していたが、被控訴人が昭和二五年一一月二五日に成年に達した後においても同様であり、右武田源左衛門は、被控訴人らから委任されて、(イ)昭和二六年二月二八日、被控訴人らが共有する大阪市東住吉区山坂町四丁目二番の五宅地六二坪を訴外崎山泰秀に、(ロ)その頃被控訴人らが共有する同市同区田辺西之町所在の宅地約一三五坪の土地を第三者に、それぞれ売却したものであり、しかも本件土地の売買契約は昭和二七年一一月二五日田淵史郎公証人役場において公正証書により被控訴人ら代理人武田源左衛門と控訴人との間になされたもので、その際公証人においては武田源左衛門に対して、被控訴人、田村春栄の代理委任状及び印鑑証明書を提出せしめて代理権限並びに委任状の真正なることを証明させているのである。

したがつて、仮に本件土地の売買契約締結につき武田源左衛門に代理権がなかつたとしても、控訴人としては、武田源左衛門に代理権があるものと信ずべき正当の理由があつたものというべきである。

二、控訴人は、前記売買契約締結の日以来、一〇年間以上所有の意思をもつて平穏公然に本件土地を占有してきたものであり、その占有の始めは買受人として善意でありかつ過失はなかつたから、時効期間が経過した。よつて、控訴人は取得時効を援用する。」

と述べた。

<証拠略>

理由

一請求の原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、売買契約成立の抗弁について判断する。

(一)  先ず、本件売買契約を現実に締結したのは誰であるかについて判断する。

<証拠>によれば、昭和二七年一一月二五日付で締結された本件土地の売買契約は、被控訴人が本人として、或いは田村春栄が被控訴人の代理人として、控訴人と締結したのではなく、武田源左衛門が売主たる被控訴人、田村春栄、田村秀太郎、田村美穂、田村吉彦(春栄が秀太郎については後見人として、美穂、吉彦については親権者として、いずれも法定代理人)の代理人として買主たる控訴人との間に締結したものであることが認められ(武田源左衛門が売主の代理人と称して売買契約を締結した外形的事実の存することは当事者間に争いがない。)、甲第九号証及び控訴人本人の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そこで、武田源左衛門の代理権の存否について判断するに、原審及び当審証人田村春栄の証言並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の各結果によれば、田村春栄は被控訴人に無断で被控訴人の共有持分を含めて本件土地の所有権全部を売却することを武田源左衛門に依頼したことがうかがわれ、当審鑑定人米田米吉の鑑定の結果は、当審鑑定人馬路晴男の鑑定の結果並びに右証人田村春栄の証言、右被控訴人本人尋問の各結果に対比して措信し難く、他に甲第五号証の三、同第八号証の四の「田村富美枝」の筆跡が被控訴人の筆跡であることを認めるに足りる証拠はなく、結局、武田源左衛門が直接或いは田村春栄を通じて被控訴人から本件土地の共有持分を売却するについての代理権を授与されたことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、追認の成否について判断する。

前顕甲第四号証によれば、本件土地の売買代金は金七二万七、八〇〇円であることが認められるが、<証拠>によれば、控訴人は売買代金を直接田村春栄に支払つたのではなく武田源左衛門を通じて支払つたところ、同人から田村春栄が現実に受領した金員は二十数万円であり、その大部分は新興宗教に寄附したこと、被控訴人は昭和二五年三月新制高校を卒業後昭和二九年八月頃まで就職して給与を得ていたが、自ら費消するなどして家計の足しにはしなかつたこと、本件売買契約締結当時、被控訴人方には田村春栄、被控訴人、田村美穂、田村吉彦が同居しており、その家計は田村春栄が司つていたが、被控訴人の父田村力太郎の死亡後その番頭が引き継いだ店舗から支給される月額二万五、〇〇〇円の手当によつてまかなわれていたこと、田村春栄は被控訴人の義母である関係もあつて本件土地の処分について被控訴人には秘していたのであり、被控訴人は昭和三七年になつて初めて右処分の事実を知つたことが認められ、証人田村春栄の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右諸事実に徴すれば、被控訴人が本件売買当時田村春栄と同居していたこと及び昭和三九年まで何ら異議を述べなかつたことを考慮してもなお、被控訴人が本件土地の売買契約を追認したものとは認められない。

(三)  更に、民法一一〇条所定の表見代理の成否について判断する。

本件土地の売買契約前に、被控訴人らの共有する大阪市東住吉区山坂町四丁目二番の五宅地六二坪を崎山泰秀に、又、同市同区田辺西之町所在の宅地一三五坪の土地を第三者に売却するに際して、被控訴人が武田源左衛門に代理権を授与したことは当事者間に争いがない。

そこで、本件売買契約締結に際して、控訴人において武田源左衛門に代理権があるものと信ずべき正当の理由があつたか否かについて判断する。

<証拠>によれば、

(1)  控訴人は、本件土地売買の交渉を不動産周旋業者である武田源左衛門との間で進め、契約内容の取り極め、公正証書作成の嘱託、代金支払は全て同人を相手として行なつたのであり、本件売買契約の締結された昭和二七年一一月当時度々大阪へ来て被控訴人らと同一町内に居住していた武田源左衛門方を訪問しているのであるから、被控訴人の意思を確認することは容易であつたにも拘らず、売主本人である被控訴人及び田村春栄(その他の売主の法定代理人でもある)に面談もせず意思を確認していないこと、

(2)  控訴人は、武田源左衛門から同人が田村春栄に金員を貸し付けているので本件土地を貸金のかたにとつた旨告げられ、その決済のために本件土地が売りに出されたこともうかがわれたにも拘らず、その事情を直接田村春栄及び被控訴人に確かめようともしなかつたこと、

(3)  本件売買契約についての公正証書(甲第四号証)の作成を嘱託する際、武田源左衛門が示した委任状(甲第六号証)中の「田村春栄」及び「田村富美枝」の署名部分は一見して同一人の筆跡であることを疑わしめる程度に類似しているうえ、印鑑証明(甲第五号証の三)の「田村富美枝」の文字と右委任状の「田村富美枝」の署名とは全く異つた筆跡であることが認められるので、委任状作成について被控訴人に事実を確かめるのが相当であるにも拘らず、控訴人はこれを被控訴人に確かめていないこと、

(4)  公正証書作成嘱託のために田村春栄の決定代理権の証明資料として武田源左衛門が持参した戸籍謄本を一読すれば、田村春栄は後妻であつて先妻の子である被控訴人及び田村秀太郎の両名との間には血縁がないことが容易に判明するのであるから、右(3)の事実と相まつて、一層被控訴人の意思を確認する必要性が大きいこと、

が認められる。以上の如き諸事実に徴すれば、武田源左衛門において形式的に整つた印鑑証明及び委任状を所持していたとしても、これにより本件土地共有持分の売却について被控訴人から授権があつたものと控訴人が信ずるについて未だ正当の理由があるものとは認められない。

なお、民法一〇九条、第一一二条所定の表見代理の要件事実については、主張立証がない。

したがつて、表見代理の主張は失当である。

三次に、時効取得の抗弁について判断する。

<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は昭和二八年一月末日頃本件土地の引渡を受けて、所有の意思をもつて占有を開始したことが認められ、控訴人の悪意を認めるに足りる証拠はないが、前項(三)の(1)ないし(4)の諸事実に徴すれば、控訴人としては被控訴人の持分六分の一については、占有の正権原のないことを知るべき事情があつたものというべきであるから、控訴人が無過失であつたものとは認められない。

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、時効取得の抗弁は失当である。

四以上の如く、控訴人の抗弁は何れも失当であるから、本件土地についての被控訴人の六分の一の共有持分は控訴人に移転した旨の所有権移転登記を被控訴人の持分を除く六分の五についての持分移転登記になすべき更正登記手続をそれぞれなすことを求める被控訴人の請求は理由があるから、これを認容すべきである。

五そこで、更に進んで、共有物分割請求について判断する。(なお、被控訴人は附帯控訴として予備的請求を追加したが、共有物分割の訴は、いわゆる形式的形成訴訟であるから、裁判所は分割の方法について当事者の主張に拘束されないのであり、控訴審において不利益変更禁止の原則も適用がない。したがつて、当裁判所としては、附帯控訴中、共有物分割に関する予備的請求は単に裁判所の注意を喚起するものに過ぎないものと認め、控訴に基づいて判断する。)

弁論の全趣旨によれば、本件土地について当事者間で分割協議が調うべき状態ではないものと認められるから、被控訴人の共有物分割の訴は訴訟要件を充足しているものと認められる。よつて、分割方法について判断する。本件土地の面積が802.01平方メートルであることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件土地の形状は別紙分割図面記載のとおりであることが認められる。右の如き本件土地の面積、形状並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地を別紙分割目録(二)記載のとおりに分割するのが相当と認められる。したがつて、右のとおり分割を求める被控訴人の請求は理由があり、これを認容すべきである。

なお、共有物分割訴訟は形式的形成の訴であるから、右分割と異なる被控訴人の第一次請求については請求棄却の言渡はしない。

右のとおり共有物分割をするので、競売を求める第三次請求については判断しない。

六右の如き分割の結果、これと異なる分割を前提とする別紙分割目録(一)第一記載部分を分筆登記手続をしたうえ右分割目録(一)第一記載の土地の控訴人の持分六分の五につき共有物分割を原因とする共有持分移転登記手続をなすことを求める請求は理由がないからこれを棄却すべく、別紙分割目録(二)第一記載部分を分筆登記手続をしたうえ右分割目録(二)第一記載の土地の控訴人の持分六分の五につき共有持分移転登記手続をなすことを求める請求は理由があるから、これを認容すべきである(なお、この訴は、共有物分割の形成判決の確定を条件とする将来給付の訴であるが、本件紛争の経緯に鑑み予め請求する必要があるものと認められる。)。

七以上の次第であるから、原判決が被控訴人の本訴請求のうち、更正登記手続をなすことを求める部分につき請求を認容した部分は相当であるが、別紙目録(一)記載のとおり共有物分割の形成判決をした部分並びに右の分割を前提とする共有持分移転登記手続をなすことを求める請求を認容した部分は失当であつて、控訴人の本件控訴は一部理由があり、又、形成的形成訴訟である共有物分割の請求については別紙分割目録(二)記載のとおり分割するのを相当と認め、かつ、控訴人は当審において予備的に別紙分割目録(二)記載のとおりの分割を前提とする共有持分移転登記手続をなすことを求める請求を追加したので、これを相当と認め、右のとおり原判決を変更することとし(なお、原判決主文第一項及び第二項(二)の部分は、訴の取下により失効した。)、民事訴訟法第三八五条、第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条に従い、主文のとおり判決する。

(白井美則 弓削孟 篠田省二)

分割目録(一)

第一、被控訴人の取得分

別紙物件目録記載の土地のうち、別紙分割図面の各点を順次直線で結んだ線をもつて囲まれた部分

第二、控訴人の取得分

別紙物件目録記載の土地のうち、右第一記載部分を除いた部分(別紙分割図面中の各点を順次直線で結んだ線をもつて囲まれた部分)

分割目録(二)

第一、被控訴人の取得分

別紙物件目録記載の土地のうち、別紙分割図面の各点を順次直線で結んだ線をもつて囲まれた部分

第二、控訴人の取得分

別紙物件目録記載の土地のうち、右第一記載部分を除いた部分(別紙分割図面中各点を順次直線で結んだ線をもつて囲まれた部分)

物件目録

大阪市東住吉区山坂町五丁目三一番の一

一、宅地 802.01平方米(二四二坪六合一勺)

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